学会について

理事長挨拶

一般社団法人日本脳神経外傷学会 理事長 刈部 博

一般社団法人日本脳神経外傷学会 理事長
刈部 博

2026年2月21日付で、一般社団法人日本脳神経外傷学会の理事長を拝命いたしました。
本学会は、学術集会の開催および機関誌『神経外傷』の発刊を通じて広く知識の交流を図るとともに、脳神経外傷に関する基礎・臨床研究を推進し、ひいては国民全体の保健・医療・福祉の向上に寄与することを目的とする学術団体です。

本学会の歴史は、1968年に設立された脳神経外傷研究会を起源とし、1977年の日本神経外傷研究会の設立を経て、2010年に一般社団法人日本脳神経外傷学会へと発展してまいりました。理事長は、初代 重森稔先生、片山容一先生、鈴木倫保先生、中瀬裕之先生、吉野篤緒先生へと引き継がれ、このたび小生が第6代を務めることとなりました。歴代理事長ならびに諸先輩方、そして会員の皆様のご尽力に深く敬意を表するとともに、その伝統と使命を引き継ぐ重責に身の引き締まる思いでおります。浅学非才ではございますが、本学会ならびに脳神経外傷学のさらなる発展のため、微力ながら全力を尽くしてまいる所存です。

脳神経外傷は、交通事故、転倒・転落、暴力、スポーツなど、日常生活のさまざまな場面であらゆる世代に発生し得る疾患であり、社会に大きな影響を及ぼす重要な医療課題です。とりわけ我が国では、かつて脳神経外傷医療の主要な対象であった交通事故による重症頭部外傷は減少する一方で、転倒等による高齢者頭部外傷の増加が顕著となっています。さらに、児童虐待による頭部外傷やスポーツ関連脳振盪などに対する社会的関心も高まり、脳神経外傷医療が担う役割はますます広がっています。

一方で、脳神経外傷医療は各診療局面における分業化・専門化が進み、急性期治療のみならず、長期的な機能回復や社会復帰支援を含めた包括的医療体制の構築が求められています。すなわち、救急医学、放射線診断学、リハビリテーション医学、リエゾン精神医学など、さまざまな領域との連携強化も重要な課題の一つといえるでしょう。

こうした内外の課題に対し、本学会はさまざまな委員会活動を通じて、わが国の脳神経外傷医療の発展と質の向上に大きく寄与してまいりました。これらの活動の柱の一つが「日本頭部外傷データバンク」です。1998年に開始された本事業は、他に類を見ない全国規模の臨床データ登録事業であり、脳神経外傷の疫学や診療動向をエビデンスとして創出してきました。現在、直近のプロジェクトであるJNTDB2023の解析作業が開始される予定となっています。

もう一つの柱が「頭部外傷治療・管理のガイドライン」の作成・改訂です。最新版となる第5版は2026年内の発刊を予定しており、これらの取り組みは診療の標準化とエビデンス創出に貢献するとともに、国際的にも重要な学術的成果として評価されています。

国際交流も積極的に推進しています。国際委員会ではWorld Federation of Neurosurgical Societies(WFNS)の国際脳神経外傷委員会へ委員を派遣しているほか、International Neurotrauma Society(INTS)やInternational Conference on Recent Advances in Neurotrauma(ICRAN)などの国際学会にも積極的に参画し、脳神経外傷分野における我が国のプレゼンス向上に努めています。また、スポーツ頭部外傷検討委員会、小児頭部外傷検討委員会、高次脳機能障害検討委員会なども活発に活動し、社会への貢献を果たしています。今後も本学会は、これらの委員会活動を通じて脳神経外科のみならず他領域との連携をさらに深め、学際的な知の交流の場としての役割を一層強化していきたいと考えています。

次世代の脳神経外傷診療を担う人材育成にも力を注いでいます。5年前に開始された日本脳神経外傷学会認定指導医・専門医制度は順調に発展しており、初回認定指導医の更新時期を迎えるとともに、毎年30〜40名の新たな専門医が誕生しています。学術面では、3年前に開始された「若手臨床研究支援プロジェクト」において採択された研究課題が着実に成果を上げています。また、前年度より新設された「優秀論文賞」には、海外の一流医学誌に掲載された論文を含め多くの応募が寄せられました。今後も本学会は、学術集会および機関誌発行といった学会基盤となる活動に加え、委員会活動、人材育成、研究支援にこれまで以上に力を注いでまいります。

さらに、本学会が蓄積してきた知見や研究成果を社会へ広く発信し、外傷予防や医療政策への提言にも積極的に関わっていくことは、学術団体として重要な責務であると考えております。

会員の皆様とともに、わが国の脳神経外傷医療のさらなる発展と社会への貢献を目指してまいりたいと存じます。今後とも本学会の活動に対し、変わらぬご理解とご支援を賜りますようお願い申し上げます。

令和8年3月