学会について

理事長挨拶

日本脳神経外傷学会理事長 鈴木 倫保

日本脳神経外傷学会理事長
鈴木 倫保

我が国の脳神経外科手術の歴史は、1877年(明治10年)西南戦争における銃創に対するtrepanationが第一例であった。その後も外傷手術が主流の一つであり、1960-70年代には急速なmotorization発達による大量の交通事故死者が発生し、「交通戦争」と呼ばれる悲惨な歴史を経験した。犠牲者の多くは頭部外傷患者で、従って脳神経外科医は日夜戦っていた。この病態の予防・解明・治療のために1968年に脳・神経外傷研究会設立、1977年に日本神経外傷研究会設立、2010年に一般社団法人日本脳神経外傷学会として新たなスタートを切った(重森 稔.神経外傷33巻、1-6頁、2010)。

本学会は多くの組織を有し、その一つであるJapan Neurotrauma Data Bank (JNTDB) は1996年に設立されて以来3回施行された。これらを元に本学会の「重症頭部外傷治療・管理のガイドライン」が作成されている。最新のJNTDBはプロジェクト2015である。これまでの結果は、経年的に1)交通外傷の減少と高齢者の転倒・転落の増加、2)重症頭部外傷例の減少、3)びまん性脳損傷の減少である。これらは、「交通戦争」に対する我々の勝利を示すと共に、日本社会の年齢構造の変化を具現しており、一方では、死亡率低下のtrade-offとして要介助者の増加と、神経集中治療への関心の低さが問題となっている。さらに、我々の目標を重症例治療から多様な外傷の病態解明・治療へ変更すべき事を強く示唆している。

これら、時代変化を背景に我々の挑戦は今後も続くが、1)数千例単位の小規模データベースJNTDBを米国、欧州或いはアジアと連合し、世界レベルの臨床研究中核の形成、2)近年のトピックスであるスポーツ脳神経外傷(脳振盪)、外傷後高次脳機能障害、低髄液圧症候群を中心に多様な病態への理解と治療法開発を目指す、3)biomarker研究を推進し、救急初療での診断補助や治療方針決定へ寄与することを目指す! 4)脳神経外傷患者の長期フォローアップをシステム化し、スムーズなリハビリテーションと復職・復学を推進する、5)開発途上国と連携し脳神経外傷に関する臨床経験と臨床研究を推進することを目指している。

社会の要求に応じたこれらの事業を引き続き学会として牽引し、且つ会員の取り組みをバックアップしたい。