学会について

理事長挨拶

日本脳神経外傷学会理事長 吉野 篤緒

日本脳神経外傷学会理事長
吉野 篤緒

  2023年3月より一般社団法人 日本脳神経外傷学会の理事長を拝命させて頂くこととなりました。本学会の歴史を振り返りますと、神経外傷の予防・解明・治療のために1968年に設立された脳・神経外傷研究会を起源とし、1977年に日本神経外傷研究会が設立され、2010年に一般社団法人日本脳神経外傷学会へ発展してまいりました。初代理事長は重森 稔 先生であり、片山容一 先生、鈴木倫保 先生、中瀬裕之 先生、そして、私が5代目になります。歴史のある本学会の理事長を拝命することは、身に余る光栄であり、その重責に改めて身の引き締まる思いでおります。微力ではありますが本会の発展に全力を尽くしていく所存です。
  さて今般、我々を取り巻く環境は大変な状態だと認識しています。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が2019年12月に中国で初めて報告され、今もなお世界的な流行を見せています。大分落ち着いてきているのではないかと感じますが、油断を許さないと思っている先生も少なくないのではないでしょうか。また、新型コロナウイルスの感染法上の分類が「5類」に引き下げられた後のことも心配されます。この3年間、患者さんの感染の確認、入院時の病床の確保、医療従事者の感染、濃厚接触者となった時の対応、等々、多くの負担を余儀なくされ、大変な思いをしてまいりましたました。また、患者さんや手術数の減少も肌で感じている先生も多いと思います。一方、人との接触が大きく制限され、対面での活動ができなくなった傍らWebによる学会等が進化・発展したとも思います。将来明らかにされると思いますが、頭部外傷の患者さんや手術数はどうであったのか、科学(頭部外傷学を含め)は停滞したのか、将来を含め新型コロナウイルス感染症は何をもたらしたのか(変化させられたのか)、少なくない変化をもたらしたように思えてなりません。そして、もうひとつ我々に大きな影響を与える(だろう)ものとして、2024年4月から開始予定の「医師の働き方改革」があります。先人達の自己犠牲を尊ぶ世の中ではなくなっているように思えます。宿日直許可の有無により大きく変わるでしょうし、自己研鑽はどう扱われるのか、気が気でありません。特に頭部外傷を扱う我々にとっては、大きな変革であるとともに対応を迫られることは必至です。同様に、ロシアのウクライナ侵攻も頭部外傷を扱う我々にとって、何かをもたらすのではないかと感じています。頭部外傷は、戦場や交通事故における診療や体制の整備等が、大きく発展をもたらしてきたのは歴史的事実だからです。既にロシアのウクライナ侵攻が始まり、1年以上が経過しました。また、長期化を含め、今後の動きは不透明です。銃創などほとんどない、戦争は本邦では関係ない、ではなく、戦傷により頭部外傷で苦しんでいる人のためにも、国際社会の一員として頭部外傷の研究・治療をさらに発展させなければならないと考えます。そのような面でも貢献をしたいと思うのは、私だけではないと思います。
  気になることを書かせて頂きましたが、前理事長の中瀬裕之先生は「近年は従来の活動に加え、小児および高齢者の頭部外傷、スポーツ外傷、外傷性高次脳機能障害、幼児虐待、低髄液圧症候群など多様な外傷の病態解明・治療を取り扱う必要性がでてきた」と言われております。また、交通事故による外傷は減少していますが、超高齢化社会を迎え高齢者の転倒による外傷は増加しています。このように社会の変化に伴い、我々が扱うべき対象領域は各倍の一途を辿っています。混沌としている現在、どのように我々は対応すべなのでしょうか。力を蓄えておくべき時なのかもしれません。しかし、発展なければ維持もできません。本学会では、歴代理事長のもとに多くのことがなされてきました。近々では、「頭部外傷データバンクプロジェクト2023」や「頭部外傷治療・管理のガイドライン 第5版」の作成が動きだすはずです。また、鈴木倫保先生、中瀬裕之先生のもと、「日本脳神経外傷学会認定専門医」制度が動き出しました。なんとか軌道に乗せ確立しなければなりません。会員からの御意見・要望や社会からの期待に応えて、本学会の使命達成・発展に向けて努力したいと考えています。皆様の御協力、御指導を何卒よろしくお願い申し上げます。(2023年3月末日)